中学・高校生の方へ

 世界的に有名な建築家の安藤忠雄氏は、『仕事力』のなかで次のように述べています。

 「仕事をするというのは生涯をかけて自分の可能性を探していくことです。こういう職業なら食いはぐれがないとか、体裁がいいとか、親や先生が勧めるからとかではなく、可能性は、自分自身で探すのです。美容師でも建築士でも、大工さんでも左官屋さんでもいい。もちろん公務員や会社員でもいいから、自分が何に惹(ひ)かれているのか寝ずに考えて欲しいと思います。可能性のない人はいないのに、その可能性に向かってとことん考える人が少ない」

 仕事選びは早ければ早いほど有利です。大人になれば考え方も変わるから大学に入ってからでいいや、などと思ってはいけません。まずは目標を定め、それに向けてどんな勉強をしなければならないのか、どんな適性や資質が求められるのかを知りましょう。

 必要な勉強内容や適性がわかれば、自分をどう変えていけば良いかわかってくるでしょう。若い頃はいつでも適性を身につけられますし、目標ができれば勉強への意欲が増すはずです。簡単に「自分は向いていない」と結論づけないようにしてください。学校の先生や両親、友達に「自分はXXになりたい、なるつもりだ」と宣言しておくといいです。そうすれば「親戚にその仕事をしている人がいるけど、話を聞いてみない?」とか「じゃあ、こういう勉強をしてみては?」などとアドバイスをくれる人もでてきます。また、その仕事にもし就けなかったらみっともない、と思う気持ちがやる気につながります。
 仕事選びは早ければいい、と言いましたが、すぐに「XXになるしかない!」と決めつけるのは危険です。この場合の仕事選びとは、おおよその方向を見定め、いくつか目標となる職業を意識し、求められる能力や適性を知るということです。

 学校は試行錯誤の場です。学力だけでなく、音楽や美術、スポーツの才能、文章表現力も、部活などを通じて自分の実力を試すことができます。
 なりたい職業が「狭き門」の場合、第2目標、第3目標の仕事もあわせて考えてみましょう。「どうせあとで気が変わる」などと思っていると、いつまでたっても決められません。できれば第1目標とする仕事に関係のある職業が望ましいです。たとえばミュージシャンになりたい人は多いでしょうが、ミュージシャンとして食べていける人はごくわずかです。その場合は第2目標として、音楽に関われる仕事――音響技術者や音楽ビジネスへの就職も考えて、それらの職業に就くにはどんな適性や努力が必要か知っておきましょう。

 例えばマスコミを例にとると、大手のテレビ局や出版社では採用条件を大学卒以上とするところが多いですが、実際にコンテンツを作っている番組制作会社や編集プロダクションでは、スキルのない普通の大学卒よりも、専門学校で基礎能力を身に付けた人のほうが即戦力になると考えているところが多いです。実力社会が浸透しつつあるなか、並みの大学に通うくらいなら人材育成に優れた専門学校に進学するという道を検討するのも良いでしょう。
 
 『専門学校へ行こう!―最新版 (2008)』 朝日新聞社 (2007/01) では、憧れの180資格208職種から専門学校を探せます。



 近年、小中学校でも職場体験や職場見学を授業に取り入れる傾向が増えています。それらによって「これだ。これこそ僕の/私の天職だ」と触発されることもあるかもしれません。それはそれで結構ですが、一つに決め打ちするのは危険です。それは、どうしても見た目のカッコ良さやお金持ちイメージ、などによって判断しがちで、本質的なところがつかみにくいためです。

 世の中には中学生・高校生の日常ではほとんど見かけることのない場所で働いている人たちがたくさんいます。見ただけで仕事内容がイメージしやすい職業―例えば医師や看護師警官工場でものづくりをおこなう人たち職人テレビタレント学校の先生、店員など―は、世の中の仕事全体からすればごく一部でしかありません。

 テレビ番組などではサラリーマン公務員の仕事は平凡な存在として描かれることが多いですが、実際にはいろんなバリエーションがあり、なかには面白くやりがいのある仕事もあります。
 経理総務人事広報企画などの仕事は、調べ物をしたり、パソコンで資料を作ったり、会議を開いたり、電話をしたり、といったありきたりの退屈な仕事だと思われる方もいるかもしれません。しかし、何について会議を開くのか、資料をつくるのかは企業や業界によってさまざまで、ビジネスの内容がわかってくるにつれて、武者ぶるいするほど面白いと思うような仕事に就けるチャンスだってたくさんあります。それは中学・高校生の時点ではイメージしにくいことかもしれません。

 そうした仕事で大学卒以上の学歴が求められることの多い理由をご存知でしょうか? それは、大学卒業者であれば、「学校の勉強」という形で、たとえ自分の個人的関心のない分野の事柄でもちゃんと深く理解して課題解決をはかる訓練がなされていると見なされるからです。
自ら問題、課題を発見し、上司から指示されなくても、課題のクリアのために頭脳を駆使し、あるいは関係するさまざまな専門書を理解し、ときには海外の関係書にまで目を通し、専門家たちと会話ができると見なされているといっても良いでしょう。
 実際には大学を卒業してもそれができない人、反対に大学を出ていなくてもそれができる人はいます。しかし、企業や官公庁が短い期間に多くの就職希望者を見て採用するかどうか判断するためには、ある程度、学歴を目安とせざるを得ないのです。

 学歴だけが重要だ、と思い込むのは誤っていますが、だからといって学歴の重要性を無視することも誤りです。高偏差値の大学に行けばガリ勉君ばかりいると思い込む人はただの愚か者です。やはりそれなりに勉強だけでなく多彩な知力をもった人たち、少なくとも知へのリスペクトを共有できる人たちとめぐり合う機会が多いと考えたほうが良いでしょう。専門の講義だけでなく、キャンパスライフのいろんな側面で、知的な人と接触し、「おまえ、こんなことも知らないの?」などとちょっとした侮りあいをしながら、切磋琢磨を繰り返すことで知力が磨かれます。

 企業や官公庁が求めるのは、そうした知的な人たちとの交流によって培われる総合的な知力なのです。



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